「え〜、これから森に行くんじゃないの?」
かわいいもの屋さんを見終わってお外に出た僕は、ディック兄ちゃんに早く森に行こうって言ったんだよ。
でもディック兄ちゃんは、今日は行かないって言うんだ。
「さっき、魔石を獲りに行くって言ってたじゃないか!」
「いや、今日は初めからお母さんたちの買い物に付き合う予定だっただろ」
ディック兄ちゃんはね、今日はお買い物をする日だって朝決めただろって。
だから今日は森には行かないんだって。
「じゃあさ、いつ行くの?」
「明日だよ。それも決まってた事だろ?」
ディック兄ちゃんが呆れたようなお顔でそう言ったもんだから、僕はホント? ってお母さんに聞いたんだよ。
そしたらさ、お母さんもちょっとあきれたお顔でベニオウの実を採りに行くと言っておいたでしょって言われちゃった。
「イーノックカウに居られるのもそれほど長い間ではないんだから、明日は家族みんなでベニオウの実を採りに行くわよ」
「そっか。じゃあ明日はみんなで森に行けるんだね」
それを聞いた僕は元気いっぱい! 次に行くって言う福屋さんの方に歩き出そうとしたんだけど、
「ああ、本当にルディーン君がいる!」
どっかから僕の事を話してる声がしたんだ。
だから僕、周りをきょろきょろって見渡したんだよ。
そしたらさ、ちょっと離れたとこからアマンダさんがこっちに来るのが見えたんだ。
「あっ、お菓子屋さんのお姉さんだ」
「あら、ほんと。あの様子からするとルディーンに何か用事があるようだけど?」
アマンダさんを見つけたのは僕だけじゃなくって、お母さんとキャリーナ姉ちゃんもだったんだ。
だから3人で何のご用事だろうね? ってお話してたんだけど、そしたらその間にアマンダさんが僕たちのとこまでやってきたんだよ。
「こんにちわ、アマンダさん。どうしたの?」
「こんにちは、ルディーン君。フランセン家のメイド見習いの子から、君たち家族がこの街に来ていると聞いてね」
アマンダさんはね。僕たちがイーノックカウに来てて、今日はお店屋さんを周ってるんだよってロルフさんちのメイドさんから聞いて僕を探してたんだってさ。
「僕を探してたの?」
「ええ。前に君の店に修行に来ているという子から、何かお菓子の事でフランセン家の料理人にわたしの知らない技術を話してしまったと聞いたのよ」
その人が言うにはね、そのお話を聞いたロルフさんが今度イーノックカウに来た時はアマンダさんにもおんなじ事を教えてあげないとダメだよって言ってたんだって。
そしたらさ、その時僕もそうだねって言ってたそうなんだよね。
だからアマンダさんは僕たちがイーノックカウに来てるって聞いて、その事を聞きに来たみたいなんだ。
「家族みんなでイーノックカウに来ると聞いてきっと話に来てくれると思ってたのに、一向に来る気配がないでしょ? だから今日街を見て回っていると聞いて探していたのよ」
「そっか。でも、教えないとダメな事ってなんだっけ?」
アマンダさんが、何で僕を探してるのは解ったでしょ?
でもさ、そのお話しなくちゃダメな事が僕には解んなかったんだ。
だから頭をこてんって倒して考えてたんだけど、そしたらアマンダさんがヒントをくれたんだ。
「スポンジケーキの話らしいけど、何か思い当たる事無い?」
「スポンジケーキ? あっ、そっか。バターの事か」
アマンダさんに言われて、僕は何の事か思い出したんだ。
それはね、アマンダさんのお店のスポンジケーキよりも僕が作ったのの方がおいしかったもんだから、ノートンさんが何で? って聞いてきたんだ。
だから僕、こっちのにはバターが入ってるからだよって教えてあげたんだよね。
そしたらそれを聞いたロルフさんから、これはもうアマンダさんのお店で売ってるんだから、ノートンさん教えてあげたならアマンダさんにも教えてあげなきゃダメって言われたんだった。
「バター? それって、生地にバターを入れるって事?」
「うん。アマンダさんのお店のスポンジケーキにはバターが入ってないから、僕んちで焼いた方がおいしかったんだよって教えてあげたんだ。でもね、後で思ったんだけど、僕、アマンダさんにもバターを入れるとおいしいよって教えてあげたよね?」
「ええ、教えてもらったわよ」
「じゃあさ、なんで? ノートンさん、お店のを食べたけど、入って無いって言ってたよ」
あの時ノートンさんは、アマンダさんのお店のスポンジケーキにはバターの香りがしないって言ってたんだよね。
でも僕、スポンジケーキの作り方を教えてあげた時に、いっしょにバターを入れるとおいしい事を教えてあげてたはずなんだよ。
だから何でお店のスポンジケーキにはバターが入ってないの? って聞いたんだ。
そしたらさ、アマンダさんはちょっと困ったようなお顔で笑いながら、その理由を教えてくれたんだよ。
「実はね、ちゃんとバターの香りを感じられるほどの量を入れようと思ったら、スポンジケーキの値段がかなり高くなってしまう事が解ったのよ」
バターって牛乳の上にたまってるのを入れもんに入れて、それをシャカシャカ振って作るでしょ?
だからちょびっと作るだけでも、結構大変なんだって。
だからそのバターをおいしくなるくらい入れちゃったら、今お店で売ってるのよりもずーっと高くしないとダメなんだよってアマンダさんは教えてくれたんだ。
「確かに、間違いなくおいしくはなるのよ。でも、入れなくてもスポンジケーキはおいしいでしょ? だから店長と話し合った結果、コストとの兼ね合いから入れないでおこうという事になったと言う訳」
「そっか。高いとみんな買えなくなっちゃうもんね」
アマンダさんのお店のお菓子はね、お砂糖を使ってるから露店とかで売ってるのよりもずっと高いんだよ。
でもそんなアマンダさんのお店でも、バターを入れたら高くなりすぎちゃうって言うんだもん。
だったらそんなの、入れられるわけないよね。
「でも、その事が原因で探しに来られたのでしたら、申し訳ありませんでしたね」
そんな事をアマンダさんとお話してたらね、お母さんが横からごめんなさいしたんだよ。
だってもう知ってる事なのに、僕が教えてあげた事を忘れてたからアマンダさんはわざわざ探しに来てくれたんだもん。
でもね、そんなお母さんにアマンダさんは違うよって言ったんだ。
「いえ、実を言うとスポンジケーキの件と聞いて、私が期待していたことがまた別にあるのです」
「別の事、ですか?」
それを聞いたお母さんは、何の事だろうって頭をこてんって倒したんだよ。
そしたらさ、アマンダさんが教えてくれたんだ。
「私はフランセン家のメイド見習いから聞いた事があるのです」
僕が教えてくれると期待していたのは生地にバターを入れるなんて簡単な事じゃなくて、
「スポンジケーキと果物や牛の乳を使ってつくる、とても美味しいお菓子があるという事を」
生クリームやフルーツを使ってスポンジケーキをさらにおいしくする、デコレーションケーキの事だったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
今回の話ですが、実を言うと一番最後のデコレーションケーキのネタで一本書くつもりだったんですよ。
なので過去の話を読み返してみると、なんとルディーン君のイーノックカウ邸でスポンジケーキを作る場面で上記のような展開になっていたんですよね。
流石にこれはいけないという事で今回、その言い訳的な回を書くことになりました。
なので、少々内容の無い話になってしまったのはご容赦を。